第31回のコラムで、“高齢者の住む家がない・・・”というテーマを取り上げました。
滞納されても3か月は裁判すら出来ない“旧借地借家法”に対し、大家が自己防衛する為には、リスクのある方の入居を断らざるを得ない、という問題でした。
実は、もう一つ現在の法律の運用により、大家だけでなく入居者様の親族も困ったことになる事態が数多く発生しております。
それは、賃貸契約の相続。
“相続なんて、我が家には関係ない!”と思われる方が多いと思います。しかし、それは“相続税の納税”であって、“相続”は誰にでも発生します。
例えば、契約名義の入居者様が病気等でお亡くなりになった場合、その賃貸契約は即無くなる、ということにはなりません。もし親族である同居人が居れば、契約は継続されます。
では一人暮らしの場合はどうでしょうか? もし、契約者がお亡くなりになっても、大家は一方的に契約を解除することは出来ません。なぜならば、賃貸の契約は“相続”されるからです。入居者様がお一人暮らしであっても、もしそのご親族がその賃貸に住みたい!と言えば、契約は相続され住むことが出来ます。
つまり賃貸契約の解除は、大家と契約者の法定相続人全員が“解除する”ことに合意しなければ解除出来ないのが今の法律なのです。
相続は“争族”と言われるように、相続人の間で揉めることが少なくありません。そんな状況で、自分達が住む可能性が無い賃貸について、優先して契約を解除することはない、というのが現状です。その場合家賃は発生し続け、最終的に賃貸の契約を相続した方あるいは、契約を解除した場合、相続人全員による家賃の支払いが発生します。この状況は、大家にとっても、残された相続人の方々にとっても望ましいことでないことは明らかです。 それでも、法律に従わざるを得ず、賃貸契約の相続として社会問題となっております。
この問題の解決策として、“住宅セーフネットの改正案”が閣議決定されました、2024年の3月のことですからごく最近、それ位この問題は重要視されているのです。
この改正案では、普通賃貸契約ではなく“終身賃貸契約”という特別な契約体系を使います。つまり賃貸契約は本人の一代限り。ただ、これを上手く運用する為には、本人の死後円滑に賃貸契約を解除する為、“死後事務委任契約”というのが必要となります。
大家側はリスク回避のためにこのような新しい制度についても勉強していますが、一般の入居者様はどうか?というと、はなはだ心もとないと言わざるを得ません。多分このコラムをお読みいただいた方も、“終身賃貸契約・死後事務委任契約”という言葉とその目的を知っていた!と言う方は少ないのではないかと推察します。
とはいえ、何も無かった時代から、“社会問題は解決しなければならない”という認識を政府が持ったことに対しては、半歩前進した!と私は大家として受けと止めております。
終身賃貸契約の実態(国交省HP): https://www.mlit.go.jp/common/001253060.pdf