地震保険については、1月のコラムで能登半島地震の発生を受け、その問題点について書きました。その後、いろいろと実態が判明しましたので、今月はそれをコラムにしたいと思います。いつもより長文になりますが、ご容赦願いたいと思います。
私は保険の知識が特別ある訳ではありませんし、地震についても科学的知見を持っている訳でもありません。ですのでこれから指摘する問題点は的を外しているかもしれませんが、少なくとも、今の地震保険の問題点を考えるきっかけになればと思います。
まず問題その1。現在の地震保険は都道府県毎に保険料の料率が異なります。令和4年10月以降の保険料率として、以下のURLにより財務省から発表されています。
https://www.mof.go.jp/policy/financial_system/earthquake_insurance/standard_premiums.html
これによると5段階の地域差のうち、料率が低い(1倍)都道府県は28道府県、2番目は約1.59倍の料率で11県、3倍以上保険料が高い地域が8都県あります。
これは、1000万円の保険金に対して、一番安い地域は7300円の保険料に対し、例えば静岡は一番高い27500円(3.76倍)を支払う、とことです。
写真をご覧ください、黄色い地域は阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震、能登半島地震があった地域で、その多くは保険料率1倍です。“大地震があったから料率が下がった!”という訳ではなく、料率算定の際、この地域は地震のリスクが少ない!と判断されたということだと思います。逆に3倍以上の地域は、首都圏、静岡県と南海トラフ地震が予測される高知県です。
確かに、首都圏は関東大震災以来大地震がありませんし、南海トラフ地震が予測される地域は地震に対する備えが必要と言う科学的見地はあると思います。しかしながら、それをもって保険料に3.7倍もの差があることは正しい地震保険の在り方でしょうか?
地震保険が必要である意味を考えれば、答えは明確。災害が発生した場合に備える!というのが本来の保険の意味ですから、被害の可能性が高いと予想される地域こそ、加入率を高め地震に備えるべきところ、現在では、同じサービス(保険金)に対して、ただでさえ高い保険料が3.7倍も高くなり、逆に加入を阻害しているとも言えます。
“首都圏は一旦地震が発生すれば、被害額が天文学的数値になる”という考えがあるかもしれません。保険はある意味“算数の世界”です。首都圏はそもそも分母が大きいですから、算数さえしっかり計算されれば、保険料に差をつける必要はないハズです。
まずこれが第1の問題。
問題その2。地震保険は住宅の火災保険にしか付与出来ない、という問題です。つまり、店舗や工場は地震で倒壊したり地震後の火災で焼失しても保険は助けてくれない、ということです。
多分それは“住む家は大事だから!”という理由だと思います。ただ、旧借地借家法で借主が過剰に守られている(だから新法が出来た)状況は、住宅も店舗も基本的には同じハズです。なぜ地震保険は、店舗は守られないのでしょう?
店舗が倒壊・消失したら事業を諦める、という選択肢は本来ないハズです。なぜならば、何人も仕事をして稼がなくてはならないから!これは雇用の問題であり、地域経済の問題であり、それこそが本来行政=国が考えなければならない大重要課題のハズ。ところが、既述のように、今の地震保険の制度では店舗等は対象外なので、2重ローンの為事業を諦めざるを得ない、というのが実態です。
1月のコラムに対し、ある大家さんから“地震保険は、住宅ローンの団信のように、災害にあったらローンの残債の返済義務を無くす、これをしないから、みんな2重ローンで苦しむことになる”とのご意見を頂きました。
そこで、前述の2つの問題と、“団信のように!”というアイディアを盛り込み、“今の地震保険がこんな風になったら、より実効性の高い、災害からの自律復興に役立つ保険になる!”ということを妄想してみた!という次第です。
まず、地域毎の保険料率の差は撤廃する!ということです。1倍には出来ないでしょうから、1.2倍位で全国統一保険料とすることにより、人口の多い首都圏でも加入しやすくなり、保険料収入が増える=災害時の保険金の原資が増えることになります。これは単なる”算数”の問題です。
次に、店舗や工場等も地震保険に加入できるようにします。保険料は住宅と同じでなくてもいいと思います。もちろん、地域差はありません。これにより、更に加入件数が増え、災害補填に対する原資が増えることになります。
次に、地震保険の基本保険料+αを上乗せして負担することにより、地震により保険対象不動産を滅失したら、その時点でローンの残債がある場合、不動産の保険金とは別に残債も地震保険で支払う仕組みを作る!ことです。
この案はツッコミどころが満載だとは思いますが、結局のところ今回の能登半島地震も、瓦礫の撤去(本来個人負担)や、一世帯一律300万円、老齢家族は+300万円、行政の手を借りて仮設店舗を建設する!というように、税金が投入されるのですから、より早い自律復興を目指す為にも、2重ローンのリスクを排除する仕組みがあれば、積極的に住宅再建や、事業の再開を大きく後押しすることになると思うのです。
最後の、“+α”の機能については、住宅ローンの団信のように“選択制”にすればいいと思います。借入金が無い方は出来るだけ安い地震保険に加入し、逆に、災害時の2重ローンのリスクを回避したいと思う方は、それなりの保険料を負担することは理に叶った経済活動の一環だと、私は思います。
地震という、個人では避けがたいリスクこそ、個人が保険料を負担することにより保険を掛ける、それがあるべき保険の姿だと私は思います。
PS: この原稿は4月18日に書いております。昨晩、高知県・愛媛県で震度6弱の地震がありました。愛媛県の料率は1.59倍、一番リスクが少ない地域とは判断されていませんが、5段階の地域差上下から2番目。その地域でも大地震は来るという事実は、今の保険料の地域差は科学的根拠に基づいていない、とも言えると思います。